中学校から陸上を始める人や、小学校の頃から陸上をやっていたけれど、中学校の大会の仕組みなどがわからない!という人も多いと思います。そこで、私が教員をやっていた頃に、保護者の方から質問が多かった内容に関してQ&Aを作りました。
Q1 アスリートビブスって?ナンバーカードって?腰ゼッケンって?
アスリートビブスというのは、すべての大会(記録会、地区大会、県大会、関東大会、全国大会…)に必要な番号を記したものです。
正式にはアスリートビブスと呼びますが、ナンバーカード、ゼッケン、という言い方をしている人もいます。すべて同じものを指します。
サイズは縦16㎝以内、横24㎝以内で、男子は黒、女子は赤の番号を身に付け、四つ角を安全ピンなどで止めます。(画像参照)

跳躍競技は安全面を考慮して、胸か背、どちらかに付ければよいことになっています。
中学校では、地区大会では各郡市で割り当てられた番号を用意し、記録会ではその番号を使って出場します。県大会では、出場者が決まってから割り当てられた番号のナンバーカードが配布され、その番号で出場します。(関東・全国も同じ)
※必ず申し込んだ番号で出場することになります。本当は81番だったのに、80番と記入して申し込んでしまった場合、当日までに80番を用意しなくてはなりません。
腰ゼッケンとは、800m以上の長距離種目で、順位を写真判定する際に見るために必要なレーン番号です。ほとんどの記録会で、あらかじめプログラムを見て、自分のレーン番号のゼッケンを用意して、持っていくことになっています。(主催者側で用意する記録会もあります)
100円ショップなどで売っているアイロンゼッケンなどに、黒で大きく番号を書けばokです。スパッツで出場する人は穴が開いてしまうので、シールタイプのゼッケンがおすすめです。
Q2 記録会って何?出場した方がいいの?
記録会とは、その名の通り、記録を取る大会になっています。会場や主催によって、公認記録会と、非公認記録会に分かれます。
公認記録会とは、そこで出した記録が公認記録として認められ、各大会の標準記録突破、強化選手の標準記録突破、埼玉県ランキングや全国ランキングに反映されます。
非公認記録会とは、その名の通り非公認ですので、ここで出した記録は、たとえ日本中学記録が出たとしても、ランキングや各大会の標準記録として認められることはありません。
主な公認記録会は以下の通りです。
➡全国大会、関東大会、県大会、公認競技場で行われる記録会。
主な非公認記録会は以下の通りです。
➡郡市予選会、非公認競技場で行われる記録会。
公認記録会で、県大会参加標準記録を突破すると、その時点で県大会出場が決まりますので、県大会に行きたい選手はできるだけ出場するべきです。(たとえ地区大会で順位や記録が落ちても、県大会に出場できる。)
なにより自己ベストを狙うのが楽しい。自己ベストが出るのが嬉しい。試合慣れして、レース展開の練習にもなる。様々なメリットがあります!
Q3 スパイクっていつ用意した方がいいの?
短距離はできるだけ早めにスパイクを用意してください。ただ、ブレードが硬いスパイク、短距離特化のスパイクなど、上級者向けのスパイクをいきなり購入しないようにしてください。
今は2万円~3万円、高いものだと4万円~5万円もするスパイクも売っていますが、そのようなスパイクを履けるようなレベルになっていないのに、物だけよくしても記録は伸びませんし、むしろ足の故障の原因になります。
最初は初心者用で大丈夫です。正しい接地の仕方、正しいフォームを身に付けて、脚力がついてきたら少しレベルアップしたスパイクを使用してみましょう。
長距離はすぐにスパイクを用意する必要はないですが、そもそも大会で使用できる靴底が20mm以内のシューズがほとんど売っていないので、最近は早くからスパイクを買っている人もいます。
長距離の場合、靴底が20mm以内のシューズを用意できる人は一旦シューズで練習し、ある程度走れるようになったらスパイクを履いて少しずつスピード練習を重ねていくのがいいと思います。
脚力がついていない状態で、いきなりスパイクを履いて長い距離を走ったことで、足を痛める人もいます。ただし、800mで2分10秒、1500mで4分30秒を目指したい!など、レベルが上がっていったらスパイクは必須です!
また、スパイクのピンには種類があります。学校で使用する場合は土用ピン、競技場で使用する場合はタータンピン(オールウェザー専用)を使用します。どれを買っていいかわからない!という人はお店の人に聞いてみましょう!
Q4 どの種目を練習すればいいの?
中学校に入学すると、小学校のころとは違って色々な種目に挑戦することができます。短距離、長距離はもちろんのこと、走高跳ははさみ跳びから背面跳びへ、ジャベリックスローは砲丸投や円盤投へ。コンバインドをやっていた人は混成競技に挑戦してみてもいいかもしれません。
いずれにせよ、色んな種目に挑戦してみた方がいいと思います。よく、中学校に入学したばかりの生徒から、こんな言葉を聞きます。
・「私は短距離なので、長い距離の練習はしません。」
・「小学校のころ長距離をやっていたので、中学校でも長距離をやります。」
もちろん、既に目標が決まっていて、その目標に向かって努力することはとても大切です。しかし、小学校で短距離をやっていたから中学校でも短距離、小学校で長距離をやっていたから中学校でも長距離をやる、と決めるのはあまりにも早いです。
ましてや、短距離をやりたいから長い距離の練習をしないなんて言語道断です。
自分にどんな種目が向いているか、自分の強みは何なのか。そんなことやってみなければわかりません。もしかしたらハードルをやってみたら、これから伸びる大きな可能性が見えるかもしれません。走高跳をやってみたら、実は大きく伸びる素質があるのかもしれません。
ですから、保護者の方も、「○○は苦手だね。」「○○はできないね。」とお子さんに言わないようにしましょう。「苦手」「できない」という競技に対するレッテルや先入観が、本来「やってみたい」と思っていた自主性の妨げになることがあります。
初めからできる人なんていません。できなくてもいいんです。へたくそだっていいんです。やっているうちに、普段使っていない筋肉が覚醒したり、動きに慣れていくことで競技レベルが上がっていきます。
短距離をやっているから長い距離を走らない、と固執する必要もありません。長距離を走ることで養える筋持久力は、短距離の後半で粘り強い走りをするために必要なのはもちろんのこと、質の高い練習を維持していくことにも必要です。
中学1年生のうちは一つの種目に特化するのではなく、色々な競技に挑戦して、様々な筋力を養っていってほしいと思います。そして見つけた技術や強みを生かして、2年生、3年生と勝負していく種目を決めていけばいいと思います。
Q5 全国大会、関東大会、県大会ってどうやっていくの?
埼玉県の中学校の全国大会、関東大会、県大会への出場条件は以下のようになっています。
全国大会➡通信陸上県大会、学校総合県大会のどちらかで、全国大会参加標準記録を突破する。(予選、決勝はどちらでもよい)
*予選で全国大会参加標準記録を突破すれば、決勝に出場しなくても全国大会に行ける。
*通信陸上県大会において全国大会参加標準記録を突破すれば、学校総合県大会で突破しなくてもよい。
*ただし、この2つの県大会のうちどちらかで突破しなければ、全国大会に行くことはできない。(記録会等で突破しても出場できない。)
*しかも、公認記録に限る。(2つの県大会で全国大会参加標準記録を突破していても、それが追い風参考記録の場合は出場権を得られない。)
*四種競技のみ、混成指定大会(記録会)にて全国大会参加標準記録を突破した場合、県大会で突破しなくても出場権を得ることができる。
関東大会➡学校総合県大会において、3位以内に入賞する。
*通信陸上県大会で3位以内に入賞しても関東大会に出場できない。
*関東大会出場を辞退する選手がいた場合、4位の選手に権利がいく。
県大会➡令和6年度からの県大会出場条件を参照。
Q6 追い風参考記録って?(+0.6m)とかって何?
トラック種目の100m、200m、ハードル、フィールド競技の走幅跳、三段跳は風速を計測しています。
追い風の場合は+で表示し、向かい風の場合は-で表示されます。
基本的に追い風の方が記録が伸び、向かい風の方が記録が伸び悩む選手が多いです。(稀に向かい風の方が得意という人もいますが…!)
そして、追い風の場合は+2.0mまでが公認記録となります。+2.1mからは公認記録とならないので、全国大会参加標準記録や大会記録には適用されません。
しかし、順位や着取りには影響しませんので、たまにこういう結果になることがあります。とある予選にて…
| 100m | 1組目 | 風 +2.8m | 決勝進出q |
| 1位 | Aさん | 12秒65 | q |
| 2位 | Bさん | 12秒68 | q |
| 3位 | Cさん | 12秒74 | q |
| 4位 | Dさん | 12秒80 | q |
| 5位 | Eさん | 12秒87 | q |
| 6位 | Fさん | 12秒89 | q |
| 7位 | Gさん | 12秒91 | |
| 8位 | Hさん | 12秒98 |
| 100m | 2組目 | 風 -2.4m | 決勝進出q |
| 1位 | Aさん | 12秒86 | q |
| 2位 | Bさん | 12秒88 | q |
| 3位 | Cさん | 13秒01 | |
| 4位 | Dさん | 13秒04 | |
| 5位 | Eさん | 13秒22 | |
| 6位 | Fさん | 13秒27 | |
| 7位 | Gさん | 13秒40 | |
| 8位 | Hさん | 13秒41 |
1組目が追い風2.8mだったのに対し、2組目は向かい風2.4mという、風でいうと、5.2mの違いがあるのです。2組目の選手が追い風2.8mの中で走れば決勝に残れた選手もいたはずですが、追い風で走った組の選手の多くが決勝に残ったというレースになります。
そのため、順位を決めるもの、決勝や選手権などは基本的に同じ組で同じ条件で走ることになっています。(長距離は別の場合もある。)
ただ、風をコントロールできる人が出てこない限り…風は、運です!
Q7 招集って何?どこに行けばいいの?
招集というのは、競技が始まる前に、プログラム記載のアスリートビブスをつけた選手が、ルールで決められたスパイクで出場するか確認をすることです。
基本的に、トラック競技は競技開始30分前に招集開始、15分前に招集完了となります。フィールド競技は練習の関係で、競技開始40分前に招集完了となります。(混成競技は10分前完了等、ラウンドや競技、大会によって違う。)
ここでユニフォームにアスリートビブスがついている状態、スパイクを持った状態(または履いた状態)で、チェックを受けましょう。
よく、ここでユニフォームを着用し、そのあとスタートするまでずっとユニフォームでいる人がいますが、気温が高くない時はあっという間に身体が冷えますので、上にジャージを着用したり、ズボンを履いたり、万全の状態で出走できるように身体を温めましょう。
招集場所は大会や種目によってまちまちです。上位大会は一か所に集まり、種目やラウンドごとに一斉に移動します。地区大会等は各種目のスタート地点(フィールド競技は現地集合)が多いです。
基本的にフィールド内に電子機器(スマホ、音楽プレーヤー、通信機器のついた時計等)は持ち込めませんので、招集所には持っていかず、ベンチに置くか、誰かに持っておいてもらうようにしましょう。(最近県大会でもスマホの持ち込みで競技進行の妨げになっていることがあります。)
Q8 陸上競技をやっている人は、どんなケガが多いの?
新1年生に一番多いケガが、脛の筋肉にくっついている脹脛の骨膜(筋肉)が炎症を起こすシンスプリントというケガです。
よく、「初心者病」と言われますが、決して「初心者」だから痛みが出るのではなく、走る時に脚に負担がかかる陸上競技や、ブレーキ動作が多いバスケの選手に多いケガなのです。
原因としては、日頃のケアを怠ったり、走り終わった後にバダバタと急ブレーキをかけることです。走った後はゆっくり流しながら止まること、また、お風呂上りにストレッチをしたり、ふくらはぎや太ももを中心にマッサージを行うことは、陸上選手としては当たり前の日課です。
他にも、踵が痛むシーバー病、膝の下部が痛むオスグット病は聞いたことがある人も多いと思いますが、基本的に痛む場合は安静に、どうしても出場しなければいけない大会がある場合はテーピングなどで負担を軽減していきましょう。
大きなケガと言えば、やはりハム(半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋からなる)の肉離れや、アキレス腱の断裂、疲労骨折や骨盤の剥離骨折などが挙げられます。走る、跳ぶということは、それだけ足に負担がかかることなのです。
繰り返しになりますが、日ごろからケアを怠らないこと、疲労をためないように、ストレッチを日課にしていくことが大切です。
他にも陸上競技にはたくさんのルール、マナー(競技場の使い方など…)があります。わからないことがあればいつでも聞いてくださいね。

